PARENTS JOURNAL

君の名前は「大福」だったかもしれない。

冬が終わり、日差しに温かみを感じることにちょうど私たちの身体が慣れ始めた頃、私たちペチジルのところにやってきてくれたBABY。

季節がまさに春へと移ろいかけているのを横目に生まれてきてくれたからか、入道雲が空の向こうへと姿を消し、青い空に浮かぶ無数のうろこ雲を眺めながら秋風に吹かれた今日、ふいにBABYの名前に込めた私たちの想いをここに書き留めておきたいという気持ちに駆られて、記事を書くことにした。

BABYが生まれる何年も前のことになる。

今考えると、カップルだったら必ず一度はやるものだからと決めつけたくなるような気恥ずかしさをたたえたやりとりである。

私たちは、いわゆる「もし子どもが生まれたら名前はなににしようか」的なやりとりをした。

そこでは、二人の名前をローマ字表記した場合に共通する文字を使った三文字の名前が最有力候補となり、瞬く間に最大多数の支持を得ることに成功した。

このとき決めた名前は、二人の間でその後数年間一度も揺らぐことなく時を重ねて熟成されていった。

にもかかわらず、この名前が採用されることがなかったのは、BABYが生まれる2年くらい前だっただろうか、大学時代の友人に子どもが生まれ、わたしたちがホクホクと温めてきたその名前が見事に採用されるという出来事があったからである。

このようにして私たちが長年温めてきた名前は、羽が生えて自立心豊かに私たちのもとを飛び去って行ってしまったから、私たちがBABYの存在を認識してはじめて直面した課題は、「ところで名前なんにする?」だったような気がする。

この課題に直面しても、個人や企業が抱える問題の解決を生業とするわたしと、お国やらなんやらの抱える難題を解決するために深夜まで身を粉にして働いていた妻は、ある意味課題解決のプロフェッショナルである。

自分の子どもの名前なんにする程度の課題など、速やかに代案が浮かび、しなやかに決定することができるだろうと当初は簡単に考えていた。

その後、冷静に議論をはじめたつもりが、気がつけば修学旅行で突如として始まるなんとか投げのように、ベッドの中でぽんぽんと浮かんだ名前を投げ合う楽しい一夜を過ごすこと数カ月。

ときには「大福」とかいうただ今君が食べたいだけだろうという餅様(もちよう=もちのようなの意味)の名前を投げ合うこともあった(その他に「みたらし」などもあったそうな)が、結局二人は初心に帰ることにした。

帰るべき初心というのは、二人に共通する何かをBABYの名前として表現したいという気持ちのことだった。

そして、生まれてくるBABYは、きっと二人にとってこの世界で一番大切な存在になるはずのものだから、二人がそろって好きなものを名前にしようと落ち着いた。

南の島にあって、美しく、いつまでも眺めていることができ、人の心を癒すことだってできる。

大きくて碧い、そして生命にあふれた豊かな存在。

生まれてくるBABYがそんな人になってくれたらそれ以上に素敵なことはないという想いを込めて、私たちは君を名付けた。

ちょうど世界を大きく分断するような出来事が起き、世界が悲しみに覆われた直後に生まれてきた君の名前には、美しいものだけを見て生きていって欲しいという親としての願望とともに、

多様な個性をもった生きものたちをとっぷりと包み込み、豊かにそのいのちを育んでいる君の名前の由来となったもののように、

異なる街で生まれ、異なる価値観を持ち、異なる肌の色で、異なる宗教を信じ、話す言葉がちがっても、ちがいをちがいとして受け止め、決して否定することなく、共に幸せに暮らしてゆく方途をいかなる状況においても常に希求する人になって欲しい。

そんなこの世界にとっての希望としての意味合いも、勝手に詰め込んでおいた。

これが君の名前の由来であり、君の名前にまつわるエピソードは、ここまで書いてきたことでその大半が語り尽くされているように思われる。

だから、自分の名前の由来を調べて報告するようにと、君がいつか学校の先生から宿題を出されても、もう何の心配もいらない。

この記事を読んで口頭で報告するか、何ならプリントアウトして学校に持っていくか、あるいはPDFにして先生にメールで送りつけるか。

もしかしたらまだこの世に存在しない便利な手段をそのとき君が利用できる環境にあるのであればそれを使って報告すれば、確実にその宿題は はなまる をもらえるはずだ。

ただし大事なことをひとつだけ補足しておく。この記事に書かれていることは、実はとても一面的だということだ。

世の中を見つめるときは、一面的になってはいけない。色んな角度から、いろんな立場にたって考えてみるべきだ。

だから、私たちの両親に話を聞いてみてもいいし、私たちの友人に自分の名前の由来についてなにか面白い話を聞いていないか尋ねてみてもいい。

もしかしたら、君がまだ生まれたばかりの頃に、友人に君の名の由来を聞かれて「ちゃぷちゃぷ育っていってほしいから」とかいうふざけた回答をしている私たちのうちどちらかひとりの発言入りの動画を入手できるかもしれない。

でもまず最初に話を聞かなきゃいけない人物は、今君のすぐ隣ですやすやと眠る君のことを優しく見つめているその人だと思われる。

その人は、きっと大好きなワインでも飲みながら、写真なんかも取り出したりして、機嫌よくいろいろと教えてくれるだろう。

その人というのは、きっと君のことが大好きな人のことだから、その人が君の名前を「大福」にしようとしていた人物であるとしても、あまり怒らないであげて欲しい。

  

2022/09 秋のはじまりに みたらしの父より

 

 

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