MATO PARENTS JOURNAL
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ふたりでシェアするペアレンツギフト
MATO JOURNAL 編集部
ペアレンツびと Vol.08 - PARENTS 大田ステファニー歓人
MATO by MARLMARLでは、「マザーズバッグからペアレンツバッグの時代へ」 と題した、社会全体の子育て意識を拡げるプロジェクトを進めてきました。
本シリーズ企画では、自分らしいスタイルで子育てを楽しむ「ペアレンツ=子育てに携わるすべての人」に光を当ててお話を伺います。
今回のゲストは、2023年に小説『みどりいせき』ですばる文学賞を受賞し、作家デビューを果たした大田ステファニー歓人さんです。2024年5月には、パートナー・かおりんさんとの間に第1子が誕生しました。
「子どもが生まれて世界の見え方が変わった」という大田さん。お子さんとともに取材現場に同席したかおりんさんにもコメントをいただきつつ、楽しくもてんてこ舞いの日々について伺いました。
── 大田さんは、すばる文学賞の授賞式のスピーチで、結婚や「来年親になる」ことについて触れていました。かおりんさんの妊娠がわかったときは、どんな気持ちでしたか?
大田ステファニー歓人さん(以下、大田):嬉しさしかなかったです。
自分、すばる文学賞の受賞が決まった時に、緊張の糸が切れたのかぎっくり腰になって(笑)。1カ月ぐらいごみ収集の仕事も休み、だらっとしていたタイミングで妊娠がわかったんです。「頑張る理由ができた!」と思いましたね。
── その後、エッセイでは親になることの不安についても書かれていました。
大田:喜び疲れて「妻と協力し合って親とかなれんの」って不安になった感じです。
けど、体調しんどいはずの妻ばっか精神的に成長してくんで「自然にできることだけしてても変われない」「親って『なろう』としなきゃなれないかも」って気づいて。
そこからは、めげずに一緒にお腹の子を心配したり、話しかけて盛り上がったり、妻の体調を気にかけたり。できていないことも多すぎて、次は気をつけなきゃと思うことの連続でしたね。
── かおりんさんから見て、妊娠中の大田さんはいかがでしたか?
かおりんさん(以下、かおりん):本当に、常に一緒に動いてくれました。子どもについてもよく調べてくれていて、助産師さんに「そんなことまで知ってるの?」と言われたりするぐらいで(笑)。同じ知識レベルを共有できているという感覚がありました。
── パパママ学級にもお二人で行かれたそうですね。その予習も兼ねて、育児本なども色々と読まれたのでは?
大田:本、家にいっぱいあります。YouTubeもたくさん観て、実際に育児をしているお母さんたちの率直な話を聞いたり、お互いに勉強した情報を共有したり。次作は妊婦が主役だから今は出産前に読んだ育児本が資料にもなっています。
── 子どもが生まれて、心境の変化はありましたか?「仕事との両立を頑張ろう」「いや、今は子どもが大事」など、日々移り変わる人が多いと思うのですが、大田さんはどうでしょう。
大田:心境の変化しかない(笑)。ラジオや取材で話したことを、後からふと目にして、自分自身に「何言ってんだこいつ」「もうその時期は終わったよ」と思うぐらい、状況も考えも情緒も毎日変わりますね。
里帰り出産じゃないのもあって、産後1カ月過ぎまでは、自分もめっちゃ気合い入れてて。
「今まで気遣うだけだったのが、とうとう体を動かすぞ!」って、妻に回復優先してもらいつつ、慣れない2人で息子と過ごしました。
生まれるまでは、妻の中に息子がいたから、妻に集中すれば2人のケアができた。だけど、生まれてからは妻と子どもという2人の人間に分かれるわけですよ(笑)。注意と必要なケアが一気に分散する難しさは感じました。
── かおりんさんが産休に入るタイミングで、大田さんはごみ収集の仕事を辞め、作家業一本になったそうですね。
大田:……。二作目が終わんなきゃ、仕事と新生児育児の両立とか無理だ、って焦ったら先に腰が終わっちゃって。腰痛が限界だったし、集中して仕上げて、二作目が出産に間に合うならそのほうがいいかなって考えてて。。
デビュー作の『みどりいせき』は週6出勤と執筆を両立して書けたし「妻と子どもとの時間以外ずっと書けんなら、時間めっちゃ余って小説めっちゃ書けんじゃん」「予定より早く作家として軌道に乗るぜ」って浅はかな計画は、ちゃんと狂いました(笑)。
── (笑)。文筆業は、細切れの時間で進めるのがなかなか難しいですよね。
大田:生まれたばかりの子の育児と並行してうまくやろうっていうのは、無茶でしたね。書くのを仕事にするのも子育ても初めてだから、それがわかんないじゃないですか(笑)。書き終わるのが目的になって、大事なことを見失いました。
でも、生後2カ月以降は妻が動けるようになって、せっかく書く時間作ってくれるのに自分も息子と一緒にいたいし、でも仕事を進めなきゃという気持ちもあるし。過去の自分の、先を見る力の甘さには苦しめられました。子育ては毎日楽しいし、大変さをプラマイゼロの次元じゃないぐらい打ち消す幸せを感じるんですけどね。
── お子さんが生後4カ月前後の今は、かおりんさんが子どもと関わる時間が多いターンなのかなと感じましたが、いかがでしょう?
かおりん:そうですね。そのことに不満は全然ないです。
妊娠中から生まれたばかりの頃は、彼が本当にフルパワーで子育てしてくれていました。でも執筆業だってあるし、ずっとそれを続けていくわけにもいかないじゃないですか。わたしも動けるようになってきたので、どこかでその比重を変えていかなきゃと思い、調整し始めたのが生後2カ月を過ぎたあたりですかね。
「わたしもこれだけできるよ」と言っても、彼はまだわたしを休ませようとしてくるんですけど……(笑)。
大田:皿洗いを妻がするようになったり、料理を再開したりするようになったら、なんかやらせてるような気持ちになっちゃった(笑)。
もともとかおりんは、体を動かしたり全力で働いたりするのが生きがいになるタイプで、自分はだらっと横になっているほうが好きなタイプ。そういう性格やコミュニケーションの仕方の違いを、まだ自分だけ理解しきれていなくって。つい「とはいえ、まだまだしんどいでしょ」と勝手に思っちゃったりするんですよね。
子どもが生まれる前は無視してたコミュニケーションの課題に、お互いを密に理解し合う必要があるこのタイミングでちゃんとつまずいた。
── そんなときはどうやって立て直していますか?
大田:「なんか変だな」と思ったら、話して、揉めて、理解して調整する、って感じですかね。
一時期、話し合いが気持ちをぶつけるためだけの場になっちゃって、もうお互い放心状態で対面してるだけ、みたいなときもあったんですけど(笑)。そういうときに、子どもが「えへー!」とかって1人でめっちゃ爆笑し始めることがあって。そしたら、もらい笑いするじゃないですか。いやー、なんかね。
かおりん:子どもが笑ってくれるだけで、「自分たち何やってんだろうね」って、笑っちゃって力が抜けるところはありますよね。
── 今は育児に関する情報がたくさんあるからこそ、「自分たちはこれでいいのだろうか」という悩みも多い印象です。育児本などをたくさん読まれたお二人は、いかがでしたか?
大田:そこはあまり悩まなくて「子育てのセオリー」を探すわけじゃなく、赤ちゃんへのアプローチのサンプル集める意識だった。だから息子が来てすぐ「これは、赤ちゃんごとの子育てがあるね」って妻と話して。
── 早い段階でそう気づいたんですね!
大田:「すぐに泣き止む方法」とかが実際はうまくいかなくても、息子や自分の技術に対する焦りじゃなくて、「なんだあいつ(本)、ウソつきやがった!」みたいな気持ちになることのほうが多かったです。
── 反町隆史さんの『POISON』で赤ちゃんが泣き止むとか、よく言われてますよね。
大田:それ! 今日まで言わないようにしてたけど、マジでストレス源だったんですよ。妻が流しまくってて。
── (笑)。
大田:『POISON』がどうこうじゃなくて、同じ曲をずっと聴くのがストレスで。それなのに、自分がお皿とか洗ってるときに「あ、また歌ってるよ」って笑われて。「何が?」って聞いたら、無意識に『POISON』歌ってて。もう嫌なんすよー(笑)。
今はオルゴールとかジブリ楽曲のリコーダー版みたいな、楽器1つだけの音楽が息子はいいみたいだってところに行き着いたんですけど。そのブームもいつ終わるかわからないですね。
── 子育てを周りの人とシェアしたり、相談したりすることはありますか?
かおりん:まだ子どもを人に預けることはありませんが、いろんな友達にちょっとずつ家に遊びに来てもらってます。子どもがいる友達には、育児の相談も結構しています。
大田:妻のほうがよく相談していて、自分はそれを間接的に聞いている感じです。
── 子どもが生まれてからの周囲の人とのやりとりで、印象的なものはありましたか?
大田:子どもを迎えるとか考えてなかった友達の反応が、めっちゃ印象に残ってますね。単純に、息子の存在をすごく喜んで抱っこしてくれて。普段あんまない上がり方のテンションに「息子のことをこんなに歓迎してくれるんだ」って感じました。
触れて初めて「あ、自分も子どもをほしいと思っていいんだ」みたいに話してくれて、きっと昔は、「小さい子どもと、側でてんてこ舞いの大人」って風景はもっと身近だった。
だから、子どもを迎えるって選択肢が今より自然にあったんじゃないかとか思うんです。
今はそこまで周りに子どもがいないし、お金の不安もある。それで子どもとの将来が思い浮かばなくなってたり自分みたいに無意識に考えないようにする人もいるよなって、あらためて思いましたね。
そして、その無意識を「かわいさ」でほじくり回すうちの息子、みたいな。
── お子さんの存在を通して、「子ども、かわいいじゃん」と周りにじわじわと伝えていくんですね。
大田:でもほんと、子どもってみんなでわぁーって祝福して、大切にしてあげる存在だよなって、友達の反応を通じて改めて感じました。
── 仕事面以外で、子どもが生まれてから大田さん自身に起きた変化はありますか?
大田:世界の見え方が変わりましたね。
昔は自分も、人生で子どもとかありえないし、自分に関係ない存在だから街で見かけても見えてなかったんです。それが、息子が来てから、街で子どもがめっちゃ視界に入るようになりました。「え、あんなちっちゃくても歩けるのか」とか「うちの子ってすごい行儀いいんだな」とか思います。
あと、これまですれ違う目上の人から「お前なんなの」って視線感じてたんですけど。子どもと一緒に出歩くようになってからは、みんな柔らかい表情で「あらまあ!!」みたいに息子を覗き込んできたり。
── 意外に周りの人も、子どもに対して好意的なことが多いですよね。厳しい視線かと思いきや、「赤ちゃんかわいいな」の視線だったり。
大田:そうなんすよ。これまでも、自分の警戒心が人に投影されてただけだったのかも、と自分の認識を反省しましたね。子どもが生まれてから、世界に対するバッファリングが追いついてきて、モノクロで見えていたものに色がつくようになったというか。ようやく自分も脳が大人になってきたのかもしれないです。
── MATO by MARLMARLでは「社会全体で子育て意識を高めたい」という想いで発信を続けています。気軽に子育てをシェアする雰囲気を作るために、どんなことができると思いますか?
大田:子育てのいいことも、気を揉んだことも、どっちもちゃんと話していくのがいいんじゃないですかね。
子育てのいいことは遠慮せず、ダルいことは隠さず話しちゃえばいいんじゃないですかね。
どうせ生きてたら良くも悪くも成長するし、子育てはもろに前の自分と変わらざるを得ない。友達や家族、近い人ほど変化を感じ取るから誤魔化したら距離ができる。
あと、身近で赤ちゃんが生まれて意識し始めることがあるなら、大事な人には抱いてもらいたいしなるべく会う。そしてこのかわいさを祝福させる(笑)。
それから、身近に赤ちゃんがいることで、自分たちも赤ちゃんを迎えよう、受け入れようみたいな気持ちになることもあると思うんです。
だから、子どもに会ってほしい人がいるなら、なるべく会わせる。そしてこの暴力的なかわいさにさらす(笑)。
「かわいい」は主観でも、うちらの事実でもあるじゃないですか。
だから、「うちの子かわいいよ!抱っこしに来て!」って呼び出して、ついでに飯食ったり(笑)。人が変わる理由に触れて変わることもある気がします。
── 遠慮せずに誘って、子どもと周りの人をつなげていくんですね。
大田:そうですそうです!ちょっと強気になるというか、謙遜せず、子どもに感じたままの気持ちを人に伝える。
「親バカ」みたいな呪いの言葉もあるけど、バカは言われ慣れてるし、愛してても不安だから親って認められただけで安心するんです。
呪いの言葉なんて誰でも言えるけど、疑いながら「愛してて〜」とか恥ずかしくて無理。
やっぱり、信じられるかわいさに弾かれた呪いを浴びてから気づくんじゃないですか?「愛やべ、呪いだる」って。
誰からも貶されずにお互いの愛を祝福し合えれば、みんなそれぞれの愛を信じられるのに、って息子から教わりました。
大田ステファニー歓人が選んだペアレンツバッグ:ORCA TOTE BAG
企画:MATO by MARLMARL
編集・取材:小沢あや(ピース株式会社)
構成:瀬戸遙
撮影:戸松愛
1995年東京都生まれ。デビュー作『みどりいせき』が2023年第47回すばる文学賞を受賞。2024年には同作が第37回三島由紀夫賞も受賞した。2024年5月に第一子が誕生した。
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